「感染症のプロ」はいるが「経済のプロ」はいない【中野剛志:日本経済の中心で専門家不在の危険を憂う】
評論家・中野剛志が現在の日本の危機をとらえ、日本のあるべき今を語るシリーズ。今回は「貨幣を正しく理解していない経済学者は、ウイルスを正しく理解していない感染症の専門家と同じくらい危険だ!」と警告を発します。
◼️接触機会8割減による経済損失の責任は政府にあり
新型コロナウイルス感染症は、懸念された感染爆発を何とか防ぎ、緊急事態宣言もめでたく解除されました。
もちろん、世界的には未だ感染者が増え続けているし、ワクチンが完成していない以上、危機は終わったわけではありません。第二波、第三波への警戒も必要です。
とはいえ、とりあえずは、ロックダウンもせずに第一波を乗り切りつつあります。政府のコロナウイルス感染症対策の専門家会議副座長の尾身茂先生は、うまくいきつつある要因は、日本の医療制度、初期のクラスター対策、そして国民の健康意識の高さだとおっしゃっています(【註1】参照)。
私は感染症のことは専門外なので、よくわかりません。しかし、感染爆発を防げたのは、やっぱり、尾身先生や押谷仁先生、西浦博先生といった専門家会議のご見識とご尽力のおかげなのではないのでしょうか。
もちろん後知恵で考えれば、専門家会議の判断にも間違いはあったでしょうし、幸運が作用した面もあったのかもしれません。しかし、新型コロナウイルスには未知の部分が多かったことや取得できるデータには限界があったことを勘案するならば、専門家会議は大健闘をしたと思います。神戸大学の岩田健太郎教授も、twitterで、日本が第一波を乗り切ろうとしている最大の功労者の一人は、西浦先生だと評しています(【註2】参照)。
【註2】2020年5月20日『Twitter』 岩田健太郎 Kentaro Iwata
https://twitter.com/georgebest1969/status/1263027869694824448
もちろん、感染爆発や医療崩壊は防げた一方で、経済が大きな打撃を受け、失業や倒産が相次いでいることは否めません。しかし、それは感染症の専門家の集まりである専門家会議の責任ではなく、経済政策をつかさどる政府当局の問題です。
しかも、専門家会議の先生方は、経済への打撃をまったく無視していたわけではありませんでした。例えば、接触機会8割減を唱えた西浦先生は、「『すぐ休業補償をしてハイリスクの場所を閉じることはすぐやってください』ということもずっと言っています」と述べています(【註3】参照)。
【註3】2020年4月11日『 BuzzFeedNews』
「このままでは8割減できない」「8割おじさん」こと西浦博教授が、コロナ拡大阻止でこの数字にこだわる理由
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-nishiura
にもかかわらず、休業補償なしで接触機会8割減を目指すという判断をしたのは、政府です。
また、尾身先生も、五月の初め、政府に対して「われわれのような公衆衛生、感染症のプロと経済のプロの両方が政府に提言し、政府は両方を見た上で最終的な判断をしてほしい」と要請しています(【註4】参照)。
ですから、接触機会8割減による経済損失の責任を、「経済のプロ」ではなく「感染症のプロ」である尾身先生や西浦先生らに押し付けるのは、お門違いであるばかりか、恩を仇で返すような所業と言えましょう。
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【URL】https://bestsellers.official.ec/items/28386853
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